たぬきの読書

読んだ本の感想やら

ひと  小野寺史典

 

 

 

今回読んだ本はこちら。

 

20歳にして、母の急死によりたったひとりになった主人公の柏木聖輔が、その年齢では身に余る孤独と向き合い、アルバイト先の惣菜屋、大学時代の友人、高校時代の旧友等彩り鮮やかな人間関係を通じて自身の人生に向き合っていくストーリーである。

 

この本の魅力的な部分は主人公の聖輔の誠実さである。高校時代に父を亡くし、次いで母も亡くなってしまう。すべてを失った人、状況としてはどん底を経験しているからこそ、ほかの同世代と比べて余計な執着、おごり、プライドがなくフラットなものの見方ができ他人の気持ちを汲み取れる、そんな男だ。

 

とは言っても超然として卓越した精神の持ち主というわけではない。自分の運命と強烈に向き合うことで前に進んでいく。この本に登場するメンバーはおかずの田野倉の職員をはじめ心温かいひとが多い。しかし、人生はそううまくいくことばかりでなく、金銭をたかる親戚、”高位にいるが故に普通のひとの気持ちがわからない”旧友の元カレなど、さらし追い打ちをかけるような人間も登場する。

 

そういった人からも逃げず、考え、向き合い、決断する。

 

孤独になった等身大の20歳の成長、人生の向き合い方はグッとくる。

 

 

話としては大どんでん返しがあるわけではなし、めまぐるしく展開が動くということはない。しかし、人生はそんなものかと思うので、等身大という意味では良いのだろう。

 

温かい気持ちに心包まれる一冊であった。