たぬきの読書

読んだ本の感想やら

かび 山本甲士

今回読んだ本はこちら

 

かび(小学館文庫)

かび(小学館文庫)

 

山本甲士さんの「かび」です。

 

少し前に読んだ「ひなた弁当」を読んだ後の爽快感

読み心地の良さ、物語にぐいぐい引き込まれてしまい目が離せない感覚。

 

この感覚を味わいたくて、山本甲士さんの違う作品に挑戦してみました。

 

 

この本は約430ページもある長編です。

 

物語は主婦の伊崎友希江を中心に進みます。

舞台は大阪の中央に位置する八阪市。

八阪市に本社を構える大企業、ヤサカ研究所に勤める夫の文則。

そして幼稚園に通う娘の理沙。

 

主婦の伊崎友希江は、日々の生活に満足もしていなければ不足も感じていない。

多くの人がそうであるような一般的な主婦のいざこざに悶々とする普通の主婦である。

 

旦那との冷え切った関係、好きでない義母との関係、娘の通う幼稚園でのいざこざ、、、

 

誰しもが大人になるにつれ直面するしがらみに悶々としつつも、満足もしなければ不足もない、ただ生きているような状態であった。

 

 

そこで突然の夫の脳梗塞

会社は労災を申請しないで欲しいと圧力をかける。

 

「身体壊すまで働かせて、後はさいならですか」・・・

 

もう我慢はしない!!

 

いち主婦が繰り広げる大企業八阪への報復劇

 

自分の中に潜む獣のリミッターが外れたとき、人はここまでできるのか、、、

 

頭のねじが外れた友希江の豪放かつ大胆な復讐の数々に目が離せない!!

 

 

 

以下ネタバレ

 

 

 

 

 

 

 

読んでいる途中、ずっと思っていた

「この話どう着地するんだ?」

一般的な小説のハッピーエンドって、勧善懲悪的なところがあると思うんですね

主人公に感情移入して、その主人公が成功、または精神的な成長なんかをして終わり

っていう感じの。

 

 

しかし、この話は一味違いました。

もう我慢はしない!

そう吹っ切れた友希江の大胆さは常軌を逸しています笑

 

パート先の同僚に食って掛かるわ、社長には灰皿を投げつける。

証拠を押さえるために録音するなんてのは当たり前。

ヤサカ時代の同僚にだって意地汚い言い合いをするし

社長の娘の男と同僚を結婚させたり(書類偽造で)

社長の愛人宅へ忍び込んだり

自殺した相談室課長の家に忍び込んだり、

最後の方にはカツアゲしてきた若者二人を階段から突き落としたりしていましたね。

 

 

そんな様子から、

あまりにも行き過ぎている、、、

と正直なところ思いました。

 

そこから、全てがハッピーエンドでは終わらないだろうし、どうなるんだ?

とページをめくる手が止まりませんでした。

 

 

「ひなた弁当」では

人間の汚い感情等はあまり描かれず、人間として活き活きと昇華していく良郎に対して

かつて周囲にいた人間たちを悲哀を持って描き、

現在の人間関係は相乗効果で高めあうような関係になっており、主人公がより輝くものとして描かれていた。

 

 

しかし今回の作品では

 

汚い感情と汚い感情の真っ向勝負!!

 

これが今回の作品の一番の魅力であると思います。

 

 

元来の友希江は、

靴を隠されても息を殺して隠れてみているだけでした。

階段から突き落としてやろうか、一瞬そんな気持ちがよぎるも行動に起こすつもりはさらさらない。

 

義母の嫌味に心の中では反論している。

 

幼稚園でのいざこざについて真実を明らかにせず

(市議会議員の子供だけ扱いが違うことなど)

表面的に波風立たないように解決させる。

 

波風立たないように解決させるって

私はすごい共感できます。

なんでもはっきり言いすぎると角が立つものですから、

本音は頭の中だけでぐっとこらえとくんですよね。

 

 

そんな友希江が吹っ切れて、我慢をしなくなったら。。。

 

 

意外と何とかなる!!

 

かつての同僚、幼稚園での人間関係など悪化はしました。

 

しかし、吹っ切れた友希江は

媚びてつなぎとめるような人間関係には頓着しません。

 

 

自分の気持ちに素直に従い、自分のやりたいように行動を起こします。

 

そんな彼女の姿はかつてのしおれた

死んでいるように生きていた姿とは全く異なり、活き活きとしています。

 

その狂気から仲間という仲間はついぞできずじまいでしたが、

 

本人の主観では物事が着々と進む充実感のあったことでしょう。

 

映画の「JOKER」に似た美学を感じました。(最近みてきました)

 

 

 

やはり最後の最後までハッピーというようには終わりませんでしたが、

友希江はたくましくなりました。

人間だれしも心の中に友希江のような狂気を抱えていると思いますが、

 

それを解放したらどうなるのか。。。

 

 

人間万事塞翁が馬といいますから、良いも悪いもないかもしれないですね。。。

 

人の狂気、について示唆を与えてくれる貴重な一冊でした。

 

 

 

物語としても過去の印象的な出来事だとか、人間関係にも丁寧に伏線が散りばめられており、「ここでこれが効いてくるのか!」「ここでこいつが出てくるのか!」といったように各所で楽しませてくれます。

一番楽しませてくれるのは間違いなく友希江の狂ったようにもみえる行動の数々ですが笑